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​おひとよし、御人好し

おひとよし

 おひとよし(御人好し)とは、性格や人当たりがよいこと、そういう人。しかし、人をほめる言葉ではなく、他者の言いなりになったり、悪人にだまされたりしやすい人を、同情しつつややあざけって、「社長はおひとよしだから、気前よくノウハウを他社に教えて、損ばかりしている」のように使う。抜け目のない人、要領のいい人、悪知恵の働く人、ずるがしこい人、などの対語と考えられる。これらの言葉は人をけなすのに用いはするが、内心「オレもこんなふうに生きたい」という願望があり、タテマエではけなし、ホンネではほめている言葉だということだ。「おひとよし」はその逆で、タテマエではほめ、ホンネではけなしている言葉だといえそうだ。

「おひとよし」は、「人好し」に丁寧語の「御」を付けた語。ホンネではバカにしているが、相手は善人であるから(「社長」だし)タテマエ上「御」をつけて敬っているものと考えられる。「ひとよし」という言い方は、あまり聞いたことはないが、島崎藤村ら明治時代の文豪が「好人物」のふりがなとして用いている。「おひとよし」という語も同じ明治中期ごろから見えるので、いずれも新しい言葉だといえる。考えてみれば、「好人物」を訓読みするなら「よきひと(いい人)」で、この言い方なら江戸時代からあるし、いまでも「おひとよし」に近い意味で使われている。しかし、「よきひと」は高貴な人という意味ですでに使われていて、明治の文豪としては「いいひと」だと俗語的すぎるので、無難な和語として「ひとよし」が採用されたものと考えられる。だったら、わざわざ訓読みにしないで「こうじんぶつ」と音読みすればよさそうなものだが、これにはちょっとしたヒントがあって、徳冨蘆花という人の『思い出の記』を見ると、同じ「好人物」を「こうじんぶつ」と読んだり、「ひとよし」と読んだりしているところがある。「こうじんぶつ」としているのは小学校のころの先生に対してで、「ひとよし」と読んでいるのは大家に嫁いできたお嫁さんに対してであり、おそらく男性や目上の人に対する「こうじんぶつ」と、女性や目下の人に対する「ひとよし」を使い分けているのだと考えられる。

「ひとよし」という言葉は、おそらく「人が好い」を名詞化したもの。「人がいい」は、人柄がいい、気立てがいいなどの意味で、「好人物」にあてるには「人がいい人」としなければならないが、名詞化したことで「人がいい人」の意味も含むことができる。

 なお、当初の「いい人」「人がいい」「ひとよし」などは、皮肉な意味合いはそれほど強くないが、彼等が悪いヤツに手もなくだまされ続けたおかげで、現代のような使い方になったものと考えられる。

​(VP KAGAMI)

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