関連用語
反吐、へど
へど
反吐(へど)とは、一度飲み込んだ食べ物を吐き戻すこと。その吐いたもの。やや俗語的な表現なので、上品に言いたければ、嘔吐、嘔吐物がよい(もっと下品に言いたい人のためには「ゲロ」という語が用意されている)。吐瀉(としゃ)、吐瀉物でも同じ状態、同じものを表せるが、吐瀉には尻からの放出も含まれるので、誤解を避けるためには、やはり嘔吐、嘔吐物の使用をお勧めする(見ればわかるという話ではあるが)。
「反吐」は「はんと」「はんど」と読んでいたこともあるようだから、「へど」は「はんと」「はんど」が変化した語と考えてよさそうだ。食べ物を吐き戻すことについては、中国の古い医学書に「嘔吐」の表記が見られるが、「反吐」という熟語が使われている文献はなさそうだ。日本では鎌倉時代の『吾妻鏡』に、北条氏との間に軋轢が生じた三浦泰村が、緊張のあまり口にした湯漬けを「即反吐」つまり「すぐ嘔吐した」という記述が見られる。この「反吐」は「へど」と訓読されるが、『吾妻鏡』の訓読書が流布したのは江戸時代に入ってからなので、原典は漢字の表記通り「はんと」「はんど」と読まれたと考えられる。「嘔吐」は「嘔」も「吐」も、口から吐くという意味なので、いったん胃に入ったものを吐き戻すことを表すには、返すという意味のある「反」の方が適切で、細かいところに理屈っぽい中国人が考えた言葉と考えてもよさそうだが、『吾妻鏡』に使われていた「反吐」が、中国の何かの文献を引いたものか、日本人が思いついたものかはわからない。
「反吐」は現代中国語で、クロバエ科のハエを表すのに「反吐麗蠅」と使われている。クロバエ科のアオバエなどは、ラテン語の学名でCalliphora vomitoriaと表されるが、Calliphora がハエを、vomitoriaが嘔吐物を表す(つまり「ゲロ好きなハエ」)。これをそのまま中国語に置きかえたのが「反吐麗蠅」というわけだが、「反吐」はあまり中国では使われていないようなので、盛んに使われているお下品な日本から拝借したのかもしれない。
(VP KAGAMI)