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外郎、ういろう

ういろう

 外郎(ういろう)とは、米粉や小麦粉に砂糖をまぜ水でといて練ったものを蒸した和菓子。名古屋や山口の名産品として知られているが、あまり喜ばれないおみやげのランキングで常に上位に顔を出す実力者でもある(というか、最近おみやげにも選ばれないので、「喜ばれないおみやげ」ランキングにも登場しない)。ういろうを喜ばない人々は、苦い緑茶に合う滋味豊かな味わいを知らないのである(といっても、あまりフォローにはならないが)。

 「外郎」という名称は、もとは漢時代以降の中国の官名であった。元(げん)王朝の役人で、室町時代に日本に帰化し自ら陳外郎(「陳係長」みたいなものだろうか)と名乗った人物が、「せき・声・のどに」あるいは「お口の恋人」的な漢方薬に「外郎」の名を付けて販売したのが発端だったといわれる。

 歌舞伎十八番に『外郎売(ういろううり)』という演目があり、これは「薬」のほうのういろうを売り歩く商人(和菓子のういろうなんか売り歩いても売れやしないだろうし)に身をやつした曽我の五郎時政のお話。この演目は18世紀初頭、つまり江戸時代中期に成立しているので、そのころは「ういろう」といえば漢方薬だという認識があったに違いない。

 この漢方薬の「外郎」がなぜ和菓子の「ういろう」になったかは不詳だが、苦い薬の口直しに「ういろう」が適していたからだともいわれる。現代では、甘くてもっちゃりしたういろうの口直しに苦いお茶が一杯ほしくなり、「ういろう」と「苦い飲み物」の良縁は不変である(って、やはりフォローにはなりそうにない)。

 ういろうの生産地としては名古屋が特に有名だが、山口県も隠れた名産地であり、味付けが多少違うらしく、「山口のういろうはうまい」とネガティブキャンペーンをしかけている。実際に食べたことがないので山口のういろうがうまいのかどうか知らないが、ういろうというお菓子がうまくない(「まずい」と言ってしまわないのが筆者の心づかい)と世間一般に見られているという事実は、その宣伝文句から知られる。

 ところで「外郎」は日本読みでは「がいろう」とか「げろう」であり、「ういろう」とは読まない。しかし現代中国語で読むと「ウァイラン」みたいな発音となり、室町時代に来日した陳外郎さんも「チェン ウァイラン」とか名乗っていたのに違いないので、この点からも和菓子の外郎がそのころ陳外郎さんにより伝えられた漢方薬を源としているのは間違いなさそうである。(VP KAGAMI)

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