関連用語
奇想天外
きそうてんがい
奇想天外とは、思いもよらないほど変わっていること、意表をついていること、そのさま。つまり、わけわかんないほどぶっとんでいること。人類ははるか昔から、意図するしないにかかわらず人を驚かせる奇想や奇行を繰り返してきたし、日本人も例外ではない。その系譜は現在のユーチューバーに受け継がれているが、奇想天外のネタも出尽くしている感があるので、逮捕覚悟、さらには命懸けで制作している者もある。もっとも江戸時代には、うそかほんとうか知らないが、しょう油の飲み比べをして亡くなった人もあったそうだから、奇想天外が命懸けになることも昔から変わらない。
「奇想天外」の語源については、ほとんどの辞書が「奇想、天外より落つ」から来ているとし、『大言海』は「奇想、天涯より落つ」からとしている。「天外」も「天涯」も「天のはるかかなた」という意味で、「変わった発想は天のはるかかなたから落ちて来る」というのがその言わんとするところらしい。ところが、「奇想、天外より落つ」も「奇想、天涯より落つ」も、文献が示されていない。筆者の調べたかぎりでは、中国清時代の文人・沈徳潜(ちんとくせん)が李白を評した文章中に「真是想落天外(まさにこの想天外より落つ)」つまり「まさに李白の発想は天の高みから落ちてきたかのようだ」という意の一文が見える。一方、紀元6世紀頃に成立したとみられる『後漢書』には、「出天外(天外より出ず)」という句が、思いがけない出来事という意味で用いられている。「天外」つまり空の遙か彼方から落ちたり、出たりするとして「思いもよらない」という意味を表す言い方は古くからあったようだ。日本でも明治10年の久米邦武の『米欧回覧実記』に「仏人は往往に天外の落想を下し」つまり「フランス人はしばしば思いもよらない考えを表明する」という一文が見え、この表現が知られていたことがわかる。
突飛な考えという意味の「奇想」も中国では紀元前後から文献に現れる語だが、「奇想」と「天外」を合わせた四字熟語もどきは古い文献にはない。日本では明治43年に出版された宮武外骨編の『奇想天来』という本があり、このタイトルは「奇想天外」のパロディだとされているので、それ以前から「奇想」と「天外」を結びつける語はあったのかもしれない。しかし「天来」という言い方が「落天外」と似かよった意味であることを考えると、むしろ外骨の『奇想天来』が変化して「奇想天外」と言われるようになったとも考えられる。小説などに「奇想天外」が使われるようになったのは昭和に入ってからのようなので、宮武外骨「奇想天来」説は、反証データが出ないかぎり、スジの悪いアイデアともいえない。
ところで「天外」は天のはるかかなたという意味だとされているが、「落天外」も「出天外」も、それぞれ「天の外に落ちる」「天の外に出る」とも読めるような気がする。奇抜な発想も思いもよらない出来事もは天の外に出てしまうような考え方であり、事象だと解釈することも可能と考えるが、漢文に詳しくないので、それ以上追究するのはやめておく。
(VP KAGAMI)