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足るを知る

たるをしる

 足るを知るとは、漢語「知足(ちそく)」の訓読みで、現状に満足するという意味。欲を捨て、より多くを求めないという処世訓だと言え、貧乏人は貧乏のままで満足せよってことかと文句のひとつも言いたくなるような話だが、原典の『老子』には、「知足者富(足るを知る者は富む)」とあいかわらずわけのわからない理屈が書かれている。後世の学者・王弼(おうひつ)は「現状に満足すれば自然と失うこともなく(出費も少なく?)、富むことができる」と解釈しているが、これは「現状に満足して金を使わずに貯め込めば金持ちになれる」というドケチのススメに聞こえる。現代の日本では「足るを知れば、精神的に豊かである」と解釈する場合が多いようだが、「精神的に富む」とは老子はひとことも言っていないので、王弼の即物的な中国人っぽい(かどうかは知らないが)解釈のほうが妙に納得できる。

 現在の日本人は、この老子の「知足者富」を実践し、実現していると筆者は考えている。国家、国民の資産が1京円を超えると試算される一方で、デフレが続き(要するに金を使わない)、物価が近隣の新興国より安くなっているのを揶揄されても、「はいはい、おれら貧乏人でございます。それがなにか」とたいして気にせず「足を知」っている。もっとも、日本は貧乏国まっしぐらだと嘆いている評論家〈そんなに「オレら金持ちやで、どや」といばりたいかね、と思う〉や、「アメリカの物価高くなっちゃってとてもハワイになんか行けねえよ」とぶつくさ言っているヤツはけっこういるから、必ずしも日本人が「知足型人間」ばかりではないとは言える。この「知足型人間」について、銀座を超地味な普段着でうろちょろしているお婆さん(実は日本に三百万人いるという一億円兆の資産家のひとりだ、きっと)のイメージを筆者は重ねている。

(VP KAGAMI)

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