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ほうとう
ほうとう
ほうとうとは、うどんと野菜を味噌味のスープで煮込んだ麺料理で、山梨県の郷土料理として知られる。山梨のほうとうは、野菜がたっぷり入った白味噌の煮込みうどんに、甘ったるいカボチャを入れてだいなしにしている残念な料理であるが(個人の感想です)、いかにも貧乏県にふさわしい(個人の偏見です)郷土料理として、最近の「とりもつ煮」などとともに一定の人気を獲得している。また、ほうとうに煮た料理は、関東地方を中心に各地にあるが、そんなにうまくもない(個人の偏見です)山梨のほうとうがなぜメジャーになっているのかは不明である。なお、山梨県人はほうとうのことを普通「おほうとう」と尊称をつけて呼んでおり、われわれもそれにならえば、田舎者の仲間に入ることができてたいへん好ましい。
ほうとうの語源について山梨県人は、武田信玄が伝家の「宝刀(ほうとう)」を使ってうどんを切り、領民に作り方を教えたからだなどとという、無茶な説を主張しているが、定説は、餺飥(はくたく? 中国語読みではハウトン)から。中国の『斉民要術』(6世紀前半に成立した農業書)によると、餺飥は小麦粉を肉の出汁でこねた餅のような食材で、これを二寸(6センチくらい)に切って薄くのばし、強火で煮込んで食べるのだという。この記述によると餺飥は、それ自体に肉汁の出汁が染み込んだショートパスタのようなものだといえそうで、ただ茹でるだけで食べられる食べ物だったに違いない(ギョーザみたいにタレをつけて食べたのかもしれない)。
日本に伝わった餺飥は、『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(平安中期に成立した辞書)に、「『楊氏漢語抄』(奈良時代の辞書)によると」として(つまり奈良時代にはもう伝わっていたわけだ)餺飥とは、小麦粉をこねて四角に切った食材であると記載されている。日本の餺飥は、中国と違って食材自体に出汁の味はついていないようで、なんらかの味付けがほどこされた汁に入れて食べられたに違いない。『枕草子』には「ほぞちはうとう」という料理が登場している。「ほぞち」はまくわ瓜。瓜と「はうとう」を煮込んだものが「ほぞちはうとう」というわけで、それこそが「ほうとう」の元祖であり、武田信玄は自分の宝刀でこねた小麦粉を切り分けたのかもしれないが(包丁の実演販売じゃあるまいし、そんなパフォーマンスをしたとも思えない)、残念ながらほうとうの語源を勝ち取ることはできず、せいぜい「宝刀でほうとうを切ったぞ」とぬかすダジャレおやじの系譜に名を連ねるにとどまっている。
(KAGAMI & Co.)