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膾、鱠、なます

なます

 膾(鱠、なます)とは、現在は細切りの人参や大根を酢、砂糖であえた「紅白なます」のことを主にそう呼ぶが、本来は生の肉、魚を細切りにしたもの、またはそれを酢などで調味した料理を言った。つまり、刺し身、またはタルタルステーキ、カルパッチョみたいな料理のことである。しかし、いまPCで「なます」を検索しても、紅白なますのレシピしか出てこないので(そんなにいろいろな人に教えてもらうほどの料理でもないと思うが)、なんでワイルドな生肉料理がこんなものさみしい料理(個人の感想です)になってしまったか、実際のところはよくわからない。たぶん「なます」という言葉が「なま酢」つまり「生ものを酢であえた料理」と解釈されて、酢の物一般を指す語となり、さらに野菜をつかった「精進なます」が登場すると、肉や魚のなますは影が薄くなって(肉や魚にはもっとうまい食べ方がいくらでもあるし)、おせち料理にも加えられて縁起のいい「紅白なます」に検索エンジンが占領されるのも無理からぬことだと言える。

 中国語で「膾(クァイ)」は、生の細切り肉を意味する。ある時代から中国では生の肉や魚をほとんど食べないようになったが、春秋時代には細切り肉を酢やひしお、薬味などで調味した「膾」が好まれていたようで、孔子や孟子も好物だったらしい。その後生の魚(つまり刺し身ですな)も食べられるようになったので、魚偏の「鱠」という漢字が加わり、日本にも伝わった。『日本書紀』には「ハマグリを膾にして献上した」という記述があるが、ハマグリの刺し身をどう味付けしたかはわからない。ただ『万葉集』に、鯛と野菜を「ひしお酢(酢味噌と酢醤油の中間のようなものか)」であえた料理が食いたいというような歌があるので、そんな食べ方をしていたのかもしれない。平安時代に成立した『倭名類聚抄』を見ると、「鱠」は中国での定義通り「細切肉」であり、読み方は「なます」。この「なます」は「なま酢」ではなく、「なまし、または、なましし(生肉)」から来ていると考えるのが定説のようだ。当時から生の肉魚は酢味噌などであえてこじゃれた食い方をしていたのだから、素直に「なま酢」でもいいような気がするが、方言を調べると、「なます」「なまし」はただの生肉を指しているので、「す」は「酢」ではないと考えるのが妥当なようだ。(KAGAMI & Co.)

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