関連用語
こだわり
こだわり
こだわりとは、執着することという意味で、最近「シェフこだわりの逸品」などと多用される言葉。この例では、「シェフが素材を選び抜き、試行錯誤して最高の調理法で仕上げた素晴らしい料理」とでも言いたいのであり、手短に言えば「力作」「労作」ということ。日本人は、対人関係では「過去のことは水に流そう」すなわち「こだわりを捨てよう」とする傾向があるが、その代わり、自分の仕事や趣味に対するこだわりが強い。それも、「こだわった」からといって誰にも注目されないし、ほめられもしないところでこだわりにこだわって、ひとり悦に入っている場合が多く、そんな性格をよく表している言葉が「職人気質(かたぎ)」であり、また「オタク」と呼ばれる人々も「こだわり」の固まりのような人種である。そのような「こだわり」は、自動車工場などで、現場の生産性を高める運動「カイゼン」に生かされている。工場の従業員は、海外の感覚でいえば「働かされている人」であり、生産性を高めるための工夫なんて「働かせている人」の利になるだけでムダなのだが、そんなムダとも思えるカイゼンへの「こだわり」を現場のひとりひとりが発揮してしまうのが日本人というものである。ばかばかしくてめざましい研究に授けられる『イグノーベル賞』の常連であるのも、日本人ならではなかろうか。
「こだわる」という語は、過去、使用頻度が少なかったようで、しかも、もとは「ものごとがどとこおる」「つっかえる」など、好ましくない意の言葉だった。『大言海』によると、少しという意の「こ」に、差し支える、支障があるという意味の「さわる(障る)」が転じた「たわる」からなる語だとのこと(他にも説があるのだろうが、使用量が少なかったせいか、誰もあまり深く調べていないようだ)。「つっかえて先に進まない」という意から、心がなにかにとらわれる、よけいなことを気にする、というマイナスイメージの慣用語となり、現代の辞書でもその説明が第一に出てくる。それが最近プラスイメージの言葉として立ち上がってきたのは、ムダなこと(ムダと思えること)にも熱意をもって執念深く取り組み、それが特異な文化を生んでいるという、日本らしさの再認識と無縁ではない。「こだわり」という語が、現代のキーワードとして注目されるのも当然といえるだろう。(KAGAMI & Co.)