関連用語
忸怩たる思い
じくじたるおもい
忸怩たる思いの「忸怩(じくじ)」は、深く恥じ入るさまを言う漢語由来の熟語だが、今ではこの「忸怩たる思い」というフレーズくらいでしか聞かれない。「忸怩たる思い」は、深く恥じ入っている気持ちという意味で、部下が不祥事を起こしたかなにかした政治家や企業のトップが、「このような不始末を起こし、内心忸怩たる思いでございます」などと、謝罪会見で発言しているのをしばしば耳にする。こんな意味のよくわからない(たぶん、使っている方もあまりよくわかっていない)言葉を使わずに、「深く恥じ入っております」と言えば、だれにでもよく気持ちが通じるはずだが、たぶん発言者は自分が「恥じ入っている」とは他人に思われたくないので、こういう言葉づかいをするのだろう。その理由は、①ホンネではたいして恥ずかく思っていないので、話す方も聞く方もよく知らない言葉を使ってごまかそうとしている、②非常に恥ずかしく思っているが、軽く見られるのはいやなので(お偉いさんですから)、漢文調の言葉を使って聞き手をけむに巻いている、③ただ単純に恥じているだけでなく、不祥事を起こしたことが残念で悔しいという気持ちをにじませたい……といったところで、たぶん③あたりが、この言葉を使う最大の理由ではないかと思われる。漢字の「忸」も「怩」も恥じる、照れるといった意味で、「残念」だの「悔しい」だのというニュアンスはないが、おそらくあまりに多くの政治家やお偉いさんが何かにつけて「忸怩たる思い」を繰り返して来たので、聞く方が勝手に「とても悔しく思っているんだね」と当て推量して、そんなニュアンスを含ませてしまったのではないかと考えられる。「慚愧(ざんき)に堪えない」「慚愧の念に堪えない」という慣用句も、ほぼ同じ意味合い、使い方をされる言葉。われわれは、お偉いさんが格好をつけてこのようなこむずかしい言葉を繰り出したら、言葉の意味をよく理解した上で、発言者のホンネを探る必要がある。(KAGAMI & Co.)