嬉しいとは、気分がいい、愉快だ、という意味で、似たような言葉に「楽しい」があるが、「嬉しい」は、ある出来事を客観的に見たり聞いたりしたときや自分の体験を振り返ってみたときの一瞬の感想を述べたもので、「楽しい」はその出来事の中に自分がいるときの感じ方や一定期間その気分が続くことを言った言葉である。例えば、野球の優勝インタビューで選手は「チームが優勝して嬉しい」（優勝したことは過去の事実だから）とは言うが、「チームが優勝して楽しい」とはあまり言わない。もっとも、その後、優勝記念のビール掛けで誰かれかまわずビールを掛け合っているとき、違うチームのファンなのでたいして嬉しくもないのにびしょ濡れにされたリポーターがその感想を選手に尋ねると「いやあ、ビール掛けってほんとうに楽しいですねえ」と答える。その際、再び優勝の感想を求めると、少しばかり居住まいを正して感慨深げに「優勝して嬉しい」と答え、また「楽し」そうにリポーターにビールをぶちまけるのである。

「うれしい」は古語では「うれし」。「うれ」は、心を意味する「うら」で、「し」は「いし（良し）」ではないかと大野晋先生は述べている。

​（VP KAGAMI）