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かたじけない
かたじけない
かたじけないとは、ありがたいという意味で、武士が謝意を表すときに用いるのを時代劇でしばしば見かける。最近あまり使われなくなった言葉で、いまどき「かたじけない」などと言っていると、少しあぶない人と見られる恐れがある。時代劇で「かたじけない」の用例を見ると、本人が恐縮したり、恥じ入ったりしている状況が多く、「サンキュー」みたいな軽い謝意ではない。実際、古く「かたじけない」は、ありがたいという意味のほか、みっともない、恥ずかしい、畏れ多い、失礼であるという意味で使われていて、時代劇でも、相手から受けた恩が負い目となるなど、自分が恥ずかしさや畏れおおさで激しく恐縮している場合によく使われる。つまり「ありがたいけど、恩を受けちゃって面目ねえ~」みたいな気持ちを表したものと考えられる。
「かたじけない」の語源は不明である。古くからある言葉であることは確かで、『日本書紀』『肥前国風土記』などにすでに「おそれおおい」「ありがたい」という意味で「辱」の字を使って記されている。同じく奈良時代に成立した『華厳音義私記』に、「容貌が醜いことをかたじけないと言う」という意の記述があり、「かたじけない」のもとの意味は「容貌が醜い」ではなかったかと考えられている。つまり容貌が醜いことから、「はずかしい」「おそれおおい」という意味につながり、さらに「ありがたいけど、面目ねえ~」の意味にまで敷衍されたということだ。文学、言語研究者の我妻多賀子氏の説によると、「かた」は「型、形」、「じ」は名詞に付いて「それらしいさま」という意の形容詞を作る接尾語、「け」は「気」で「様子、気配」、「なし(ない)」は「無し(無い)」で、「かたじけなし」は「ちゃんとした形ではない」つまり「形が整っていない」「要望が醜い」という意味になるという。このような複雑な語の組み立てを大昔の人が意識したのかどうかわからないし、この説が有力なのかどうかも知らないが、「かたじけなし」に類似する語が見当たらず語源をたどるのが難しい現状、納得できる説としてあげておく。(VP KAGAMI)