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生暖かい、なま暖かい

なまあたたかい

 生暖かい(なま暖かい)とは、常温よりやや温度が高い感じがするという意味。つまり死後さほど時間が経過していない遺体の温感、または、容疑者が逃げて間もない布団の中の温感。「生(なま)」は食材に火を通していない状態をいうが、接頭語として使われる場合、やや、少し、なんとなく、中途半端である、不十分であるといった意味を加え、「生あくび」「生臭い」「生煮え」「生かじり」「「生兵法(なまびょうほう)」などと使われる。いずれの用法にも見られるように、「生」であることがあまり好ましくないニュアンスで使用される。「生暖かい」も同様で、「暖かい」は人間にとって心地良い温度感覚だが、「生(なま)」が付くと、その微妙な温度の高さがあまり気持ちのよくない場合に使われる(気持ちがよい場合は「ぬくもり」とか「ほっこり」とか、そんな耳障りのよい表現が使われる)。

 例えば、昔の日本では、夜中に幽霊が登場する直前に(実際にそういうものが家を訪れたかどうかはさておき)、生暖かい風が吹いてきたりする。幽霊が登場すると、恐怖で寒気が襲うので、その対比を際立たせるためかもしれないが、「生暖かさ」が不快や不安の表現であることは疑いない。詩人・萩原朔太郎も『月に吠える』中の一篇「春夜」で、「生あたたかい春の夜」にアサリやハマグリやミジンコが砂の下で無数の触手を伸ばして舌をちろちろ見せているという、ぞわぞわした不快な心象風景を描いている。この情景は確かに「生あたたかい春の夜」でなければならず、「蒸し暑い夏の夜」でも「肌寒い秋の夜」でも「凍てつく冬の夜」でもダメであり、さらに言えばただの「あたたかい春の夜」ではもっとダメであり、「なま(生)」が効いている表現となっている。ちなみ「春夜」ではこの後、波打ち際を「腰から下のない病人の列があるいてゐる」というやり過ぎな一節が加えられている。(VP KAGAMI)

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