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名に負う、名にし負う

なにおう、なにしおう

 名に負う、名にし負うは、その名前にふさわしいという意味で。「これが名にし負う富士山か」のように使われる。つまり、世間で評判が高い「富士山」だが、実際見るとその名声通りだ、と言いたいわけだ。富士山を見て、人が言うほどではないと感じた場合は、「名前負け」とか「評判倒れ」などとけなされ、さらに格上げ(格下げ)されると「日本三大がっかり」などという汚名をきせられることになる。

 名に負う、名にし負うは、最近あまり聞かれない言葉で、古語の部類に属するといえ、『伊勢物語』の「なにしおはば」(そんな名前を持っているなら、そんな名前にふさわしいというなら)という名文句とともに古美術的な響きがある。「負う」は、持つ、背負うという意味だが、「負担」や「負債」などにも使われる「負ける」という意味の「負」を使っているように、重荷として持っているという意味合いが強い言葉である。つまり「名声」や「評判」があまりに高いために、それを背負っている実物が重荷と感じている状況を表しているが、その重荷に負けないだけの実体がともなえば、「名にし負う」と胸を張ることになる。

「名に負う」は「名を負う」と言いかえることができそうだが、「名を負う」とすると「負う」は他動詞となり、その「名前」または、名前を持っていることが重視される。「名を負う都鳥(みやこどり)」では、野鳥ガイドがうんちくを述べているみたいな言い方となり、在原業平の言説にはふさわしくない。一方「名に負う」の「負う」は自動詞で、名前、名前を持っていることは副次的な要素となり、その名前を持っている者そのものに焦点が当てられる。だから「名にし負う都鳥」は、「そんな名前を持っているんだから、オレの彼女が無事でいるのかどうか答えてみろや」と、在原業平の期待を都鳥くんは背負うこととなるわけである。

​(VP KAGAMI)

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