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浮世絵

うきよえ

 浮世絵は、江戸時代の風俗画。主に木版印刷による複製芸術作品を言い、浮世絵画家が描いた肉筆画もこのジャンルに含まれる。とは言ったようなものの、当時の浮世絵版画は、現代でいえばポスターやグラビア、カレンダーなどの印刷物にあたり、決して「芸術作品」ではなかった。それがいま、貴重品として高値で取り引きされるようになったのは、19世紀末ヨーロッパでその芸術的価値が認められたからである。

 浮世絵は当初、陶磁器などの輸出品の緩衝材として海を渡った。それをヨーロッパの好事家が発見し、収集を始めてブームになった。とにかくもとはただの詰め物でありゴミ同然の代物であるから、値段も二足三文であり、当時のヨーロッパの新興市民階級や売れない画家たちにとっては格好の収集品だったはずだ(日本で安く仕入れて、あちらで高く売りさばいたヤツは多いだろうが)。その意味で浮世絵は、究極の「ジャンクアート(廃品アート)」と呼べるのではないだろうか(もちろん、廃品利用の「ジャンクアート」ではなく、廃品になりかけたアートという意味での「ジャンクアート」である)。

 浮世絵は19世紀末の西欧の芸術家、特に印象派の画家に強い影響を与えている。ただ、浮世絵に影響を受けたといわれる画家の作品を見ても、われわれ素人にはどこが浮世絵に似ているのかよくわからない。ゴッホなどは、浮世絵を模写した作品が残っているくらいだが、ゴッホの作品は浮世絵にちっとも似ていない。もっともゴッホは浮世絵を見て、太陽がさんさんとふりそそぐ地中海気候のアルルの景色にそっくりだと言ったくらいだから、ものの見方がヘン(というか、思い込みが強すぎる)なのはやむをえず、自分では浮世絵をまねしているつもりだったのかもしれない。

 西欧絵画への影響を考えるうえで重要なのは、西欧の画家が浮世絵を初めて見たとき、それに強い魅力を感じた(早い話「いい絵」だと思った)という事実である。浮世絵はそれまでの西欧の伝統絵画と違って、描く対象にあまり似ていない。あるいは似せているつもりだが、描く技術が東洋画の伝統に縛られているため(西洋画と比べれば)ヘタである。ヘタなのに魅力的(つまり、ヘタうま!)。それが当時、写真技術が進歩したおかげで「絵画は対象に似せて描けばいいってもんじゃない」という大問題に直面していた画家に、ひとつの解答を与えたのである。単純な色づかい、陰影法の無視(平面的な表現)、輪郭線の強調、恣意的な画面構成と演出、意外なモチーフ(雑草とか虫とか)、画家たちが自分の作品に取り入れた(パクった)技術はそれぞれだが、要は「ヘタだけどイケてるじゃん」というコンセプトが、浮世絵によって画家の精神にガツンと刻まれたということ、それが浮世絵が西洋絵画に与えた影響の最大の要点だと考える。

 (KAGAMI & Co.)

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