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飛んで火に入る夏の虫

とんでひにいるなつのむし

 飛んで火に入る夏の虫とは、自分の身を滅ぼすような危地にあえて飛び込む者をさげすんでいう言葉。特に、当方が十分な迎撃態勢を整えていたり、罠を仕掛けているにもかかわらず、むやみに突進している敵をあざけって、「飛んで火に入る夏の虫とは、やつらのことだ」などと使う。昆虫は走光性の本能によって火に飛び込むことがあるが、そのような虫に人は避けられない宿命のようなものを感じ、速見御舟(はやみぎょしゅう)の傑作『炎舞』(1924、重要文化財)を生むが、敵対する相手が無謀な突進をすると、「虫並みの脳みそしかないおバカなヤツ」と嘲りの対象となる。

「飛んで火に入る夏の虫」のもととなった言葉が出てくるのは、中国の歴史書『梁書(りょうしょ)』到漑(とうがい)伝(6世紀前半成立)で、「飛蛾(ひが)の火に赴くがごとく」(飛ぶ蛾が火に飛び込むように)身を惜しまず勉学に専念しなさいという文脈で使用されている。この場合、命がけで勉強せよというポジティブな表現だが、その後の『事文類従(じぶんるいじゅう)』(13世紀成立)になると、バカな連中は火に飛び込む蛾のように、本能にまかせてカネを欲しがるというネガティブな表現となり、日本でも『源平盛衰記』に同じ意味合いの文章が見られる。江戸時代に入ると浄瑠璃『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』(いずれも江戸中期成立)などに「飛んで火に入る夏の虫」というセリフが登場し、これが現在につながっていると考えられる。

(VP KAGAMI)

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